次男を妊娠したのは、長男が退院してしばらくしてからでした。妊娠が分かった時は、年子で欲しかったし、嬉しかったです。二人目の妊娠ということもあり、妊娠期間中の流れは分かっていたつもりでした。でも、妊娠期間というのは思いもよらないことが起こるものなんです。
それは、まだ安定期に入る前、妊娠4ヶ月の頃でした。会社勤めをしていた私は、いつもどおり出勤し、いつもどおり仕事をこなしていました。何気なくトイレに行ったとき、下着に妊娠中には起きてはいけないくらいの出血をしていることに気が付いたのです。落ち着こう、とりあえず事務所に戻って訳を話して病院に向かおう。そう思っていると、さらにボタボタと血の落ちる音。便器はすでに真っ赤。落ち着いてなどいられませんでした。取り乱した状態で事務所に戻り、必死に同僚に何か叫んだのは覚えてます。同僚は「どうしよう、どうしよう」と泣き続ける私を必死になだめ、車を出してくれました。病院でも他の妊婦さんより先に見てくれて、私はお医者さんの前に座りました。
「切迫流産です。すぐ入院ですよ」
流産。その言葉の重さにショックを受けて、その後のお医者さんの説明は全く聞こえてませんでした。唯一聞こえてたのは「赤ちゃんは大丈夫ですよ。」ということ。その後看護婦さんと一緒に病室に入り、すぐに点滴。たって歩くのはダメ、トイレもダメ。許されていることはテレビ、読書、睡眠、食べること。毎日不安で、毎日怖くて、胎動を感じる時期にはまだ早く、毎朝の健診で看護婦さんに出血が止まっているか聞くと、力なく首を横に振られて。ただ、ひどい出血ではなくて量は確実に減っているからと言われて、血が止まったら退院、血が止まったら退院と呪文のように毎日繰り返して日々を過ごしていました。
そんなある日、夢を見ました。
私は一人の青年と一緒に何かから逃げてるんです。車、バイク、いろいろ使って必死で逃げるのですが、ついに追い詰められてしまいました。目の前には壁のような崖。振り返ると追っ手はすぐそこ。私と青年は崖を登り始めました。雨が降った後なのか、どろどろとぬかるむ足元。草を掴もうとしても滑って掴めず、必死で爪を立てて登っていきました。必死で登りきると、吹いていたのはさわやかな風。青々と広がる草原。青年はすでに登りきっていて、気持ちよさそうに風を受けていました。そして、私を振り返って言ってくれたのです。
「もう大丈夫だよ」
って。目が切れ長で、例えるならGLAYのボーカルのTERUのような目。ああよかった、助かったんだと安心したところで目が覚めました。 目を覚ますといつもの天井、ちょうど健診の時間。看護婦さんがついに待ち望んだ言葉を言ってくれました。
「あら、出血止まったよ!よかったね!!」
ああよかった、きっとお腹の子供が知らせてくれたんだ。これで退院できる、普通の生活に戻れる!お医者さんも
「これでとりあえず一安心です。お部屋の中なら歩いてもいいですよ」
後は点滴が外れるのを待つだけ。もうすぐ退院だ。そう思っていたら、続いて出てきたお医者さんの台詞は。
「手術の日にちはまた決めましょう。でも早いほうがいいでしょうからね」
・・・手術?なんで?妊娠してるのに手術していいの?とういうかどうして私が手術受けなきゃいけないの?お医者さんも看護婦さんもいなくなった1人だけの病室で、今度は手術を受けるという問題に途方に暮れてました。
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